« 春爛漫! コロッケとアイスは別腹ネ★ | トップページ | 昭和のオットー、亭主関白を宣言! »

賢者の贈り物 ~ママを支える愛のかたち~

ケイトリンのママが差し出したのは、合板張りの古ぼけた小箱。銀色の飾りにはやけに真っ赤な模造宝石がはめ込まれていて、素敵とは言えない代物だった。「これ何なの?」。「あたしが二十歳になったとき、Nがくれたのよ」。

蓋を開くと、「エリーゼのために」が流れ出した。オルゴール! ずっと誰も聞いてくれなかったから、少し錆びたような旋律が必死で…心が締めつけられるような感じがした。内側に張られた赤い布だけが、最初の色を鮮やかに留めている。蓋の裏側に付いたひし形の鏡は、曇りきってもう、何も映さない。

入っていたのは緑に錆びついた中学、高校、大学の校章である。“体が弱くて、ちゃんと学校に通えなかったのに”…でもやっぱり、青春時代は輝かしいものだったのだ。“あたしの知らないママ、生き生きと学校に出かけたママ”…ケイトリンはまた胸を突かれる思いがした。

「Nはこれにピンクと茶色の宝石の指輪を入れて、贈ってくれたの。ケイトリンに前にあげたでしょ」。「そう。あれか」。「本人は覚えてないって言うんだけどね、あのとき、嬉しかったあ…」。ケイトリンはオルゴールの蓋を閉めた。ママの切ない気持ちがはち切れそうで、たまらなくなったから。

「あっ、まだオルゴールかけておいて。…この曲、いいでしょう。Nの優しい気持ちが伝わってくるの。分からないかな」。ママは少し涙声、ケイトリンも泣き出しそうになった。オルゴールのねじをいっぱいに巻き直すと、今度は素晴らしいテンポで、曲が流れ出した…。

Nはママの弟である。N叔父は、就職して初めてのお給料でママに成人の贈り物をしたのである。田舎に住む青年が、多いはずのない初任給で選んだのは、美しいメロディーが流れるオルゴールと宝石の入った指輪だった。自分が思う精一杯綺麗なものを、姉のために贈ったのである。なんて、素晴らしいことなのだろう。

ママはお嫁入り道具の桐のタンスの奥に、またオルゴールをしまった。長い人生でいろいろな災禍にくじけてしまいそうなとき、こういうものこそが、また人を信じて生きていく支えになるのではないかと思う。古ぼけたオルゴールは、ママを支える愛のひとつである。

|

« 春爛漫! コロッケとアイスは別腹ネ★ | トップページ | 昭和のオットー、亭主関白を宣言! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/508227/40662239

この記事へのトラックバック一覧です: 賢者の贈り物 ~ママを支える愛のかたち~:

« 春爛漫! コロッケとアイスは別腹ネ★ | トップページ | 昭和のオットー、亭主関白を宣言! »